感染症対策の必要換気量の基準を考える

新型コロナウイルス感染症拡大によって、室内換気が見直されています。

「うちは換気扇がついているから大丈夫だよ」と思いますよね。

換気扇がついているのに、エアコンがついているのに、なぜ窓を開けないといけないのか、と思いますよね。

そのような疑問にお応えするために、そもそも建築の換気計画はどうなっているのかからご説明したいと思います。

感染症が始まる前、なぜ換気が必要だったか

そもそもなぜ室内の換気が必要かということですが、室内空気は人間が生活をすることによって、どんどん劣化していきます。人が生活して劣化した空気とは、呼吸によって吐かれた息によって、有害物質を含んでいたり、湿気が高かったり、臭いがしたりします。そうした空気は、自然に無くなることはありません。そうした古い室内空気を外の新鮮な空気と入れ替えることによって、人は健全な暮らしができるようになります。

高断熱・高気密の家になってきたこと

なぜ、換気の重要性が見直されてきたかというと、昔と比べて日本の家は高気密・高断熱の家になってきたことも理由のひとつです。

高気密・高断熱の家自体が悪いということではありません。高気密・高断熱にすれば、熱損失が少なくなります。暮らしに必要なエネルギーを少なくするためには、高気密・高断熱にすることは重要です。一方で、高気密にすると熱が外に逃げないと同時に外気との空気の入れ替えが自然には起きにくく、その中で人が生活していると室内空気はどんどん汚染されていくということです。昔の日本の家は、もともと風通しがよかったので、熱損失は大きかったものの換気についてはそれほど重要視されてきませんでした。

外の空気の方が汚れていない?

「最近は、地球のCO2が増えていると聞くし、外の方が排気汚染やPM2.5など有害ではないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、外気よりも人間が生活して劣化した空気の方がよっぽど有害です。これは空気中に含まれる有害な物質の濃度に起因します。室内空気よりも外気の方が有害物質が多いとしても限りなく広い空気中の濃度にすれば室内よりも低い濃度になります。だから室内の空気と外の空気を常に入れ替えるように、すべての建築には常時換気が義務付けられています。

室内空気の劣化を計る基準がほしい

空気は目に見えないので、見た目ではその空気が古くて劣化しているかどうかということは、分かりにくいです。そこで、二酸化炭素CO2濃度を空気洗浄度の1つの指標として考えるようになりました。

人間が呼吸によって酸素を取り込み、その廃棄成分として放出される二酸化炭素CO2の濃度を測ることにより、その室内の空気が外気と比べてどれくらい汚染されて劣化しているかが分かります。

それはすなわち、CO2濃度によって室内空気が換気されているか(外気に近いか)が分かるひとつの指標になっているということです。

CO2濃度によって人体にどのような影響を与えるか

二酸化炭素CO2濃度の数値の単位はppmで表されます。1ppmは100万分の1の濃度を表しますのでパーセントで表現すると1ppm=0.0001%という濃度になります。

CO2の基準値設定は、「二酸化炭素自体は、少量であれば人体に有害ではないが、1000ppmを超える倦怠感、頭痛、耳鳴り、息苦しさの症状を訴えるものが多くなり、フリッカー値(フリッカー値が小さいほど疲労度が高い)の低下の著しいこと等により定められたものである」とされています。

これは、WHOによるCO2判定を考慮しつつ、主に空気洗浄度(換気の評価基準)そして、1000ppmに設定したと考えられています。

閉め切って換気されていない室内に大人数がいると数時間で1000ppmを超えてしまいます。目には見えませんが、何となく息苦しさとか頭痛がする場合には、換気量が足りていないのかもしれません

ちなみに外気の二酸化炭素CO2濃度はどれくらいかといいますと400ppm台です。しかし、この濃度がどんどん大きくなり地球温暖化の原因になっていることは、ご承知の通りです。以下のグラフは気象庁のホームページから抜粋していますが、右肩上がりなのがお分かりいただけると思います。

地球全体の二酸化炭素の経年変化
青色は月平均濃度。赤色は季節変動を除去した濃度(気象庁HPより)

建築の換気設計はどうなっているのか

そもそも建築において換気が重要視されるようになったのは、建材などから揮発されるVOCなどに起因するシックハウス症候群が問題になったからでした。

これによって2003年に24時間常時換気できる換気設備(換気機械)を新築住宅には設置することが義務付けられました。

その換気量は、住宅系であれば0.5回/h以上と定められています。つまり1時間にその室内の空気が、半分以上外気と入れ替わる程度の機械換気をするということです。気密性の高い住宅こそ、この機械換気が重要なわけです。

そして、その換気量の根拠もまた二酸化炭素CO2濃度によるのです。

建築基準法による算定では、一人あたり20㎥/hの量を換気することを基準としていますが、これは成人が静かにしている状態で二酸化炭素の発生量(約13ℓ/h)を根拠に室内二酸化炭素CO2濃度が1,000ppm以下になるようにした逆算から求められた数値です。

例えば、仮に延床30坪の家(分かりやすく天井高2m設定)に4人で住んでいるとします。つまり、この家の空気の容積は約200㎥とします。家族4人の必要換気量は、20×4人=80㎥/h<100㎥/hなので0.5回/h換気できていれば十分換気できているという計算になります。

実際には換気できているのか

以上のように、建築自体は換気するように計画されていますが、実際には十分な換気はできているのでしょうか?私の測定によると多くの場合、計画通りに換気できていないと思います。それは、24時間常時換気する機械の作動を必要性を知らずに止めてしまっていたり、換気のフィルターが目詰まりしていたり、空気が思うように外気と入れ替わっていないからです。

24時間換気が正常に機能して換気ができていれば、室内の二酸化炭素CO2濃度は、400~600ppmくらいになっていると思います。(室内空間に対する人の密度によります)

もし、機械の24時間換気が何らかの要因で正常に機能していない場合には、意識的に窓を開けて換気をする必要があります。換気計画は、あくまでも計算上の理論であり、実際の室内の二酸化炭素濃度CO2が1000ppm以下になっているかどうかということがポイントです。そういう意味では、二酸化炭素CO2濃度モニターを常時おいて、1000ppmを越えたら窓を開けて換気をするということを習慣にすることによって、最低限の換気は行われていると考えて良いと思います。

感染防止対策のための必要換気量基準

では、新型コロナウイルス感染防止対策のための換気量の基準も二酸化炭素CO2濃度1,000ppm以下になっていれば十分でしょうか。

答えは、おそらくそれでは足りないと思います。現在ある新型コロナウイルス感染防止対策マニュアルでは、定期的な換気を1時間に2回以上として記載されていることが多いようです。言い換えれば30分に一回すべての室内の空気を入れ替える頻度です。

これは、厚生労働省のホームページの『新型コロナウイルスに関するQ&A』でも記載されている数字です。

この1時間に2回以上の換気という基準は、二酸化炭素CO2を基準として換気する量の4倍以上にあたります。

ですので、これを全部機械換気に頼ろうとすると、現在計画されている換気扇の量の3倍分増設する必要があります。でもそれは費用が掛かりすぎますよね。だから、意識的に窓を開けて効率の良い換気を行う必要があります。30分にすべての空気が入れ替わる量の

換気の悪い密閉空間」を改善するための換気方法』(厚生労働省より)

しかし、見た目では換気できているかどうかは分かりにくいので、やはり「二酸化炭素CO2濃度〇〇ppm以下となること」のような定められ方になるのではないかと思います。

なお、十分な換気を行っていても飛沫感染は防げませんし、逆に飛沫感染対策をしていても換気が不十分な室内に長時間いると感染リスクが高まることには、変わりありませんのでそれは誤解のないようにお願いします。

二酸化炭素CO2濃度の測定と換気量のイメージについてはこちらの動画をご参考にしてください。

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