これからの建築工事費は安くなるのか

昨今の建築工事費の単価は、日本のバブル期よりも高い気がします。建築工事費は、大きく3つの要素から成り立ちます。一つは材料費。2つ目は労務費。3つ目は会社の粗利益です。粗利益なしでは、会社は存続できなくなりますので、3番目の粗利益はどうしても必要になります。

今の建築工事費の高騰は、材料費や労務費の高騰によるもので、かつて経済状況のよくなかった時代に競争の中で下がりに下がった工事費の反発で少しずつ戻ってきたように思います。

そうであれば、今後ある程度まで工事費が高くなるとまた安くなりだすのでしょうか?それを考えてみたいと思います。

日本の長期人口推移と予測(国土交通省「国土の長期展望」)

上のグラフは、いまさらという感じですが、日本の人口の推移です。日本の人口はこの100年で大きく増加し、その反動で大きく減少しつつあります。これが、国土交通省の予測値です。

人口が減って行けば、空き家が増えてきます。空き家の推移の予測がこちらです。

出所)実績は総務省「住宅・土地統計調査」より。予測値はNRI。

今後も総住宅数は、増えていきますが、人口は減っていきますので、空き家は増えていきます。

これでは、空き家があるのに新築の住宅が増えることによって、ますます空き家が増えていくということになりますので、それでは新築の着工数は減少していくのは自然の成り行きと言えます。

出所)実績値は国土交通省「住宅着工統計」より。予測値はNRI。

そうなると私たちのような工務店や大工の仕事は少しずつ減っていくのだから、市場の原理で価格競争が起きて、これからの工事費は安くなっていくでしょうか。

ところが

そう単純な話ではなさそうです。なぜ、今工事費が高くなっているのか。まずはこのグラフをご覧下さい。これは、日本の大工さんの人数の推移と予測値です。

出所)実績は総務省「国勢調査」より。予測値はNRI。

約十年後の2030年には、21万人まで減ってしまうという予測値が出ています。大工さんだけでなく、あらゆる専門業種の職人さんが同じ様に減っていくと思われます。

この予測値をもとに住宅の着工数の予測値と比較して大工さん一人あたりの住宅着工数に直すと次のようになります。

出所)実績は総務省「国勢調査」、国土交通省「住宅着工統計」より。予測値はNRI。

日本の大工さんが一年に建てる住宅の戸数は、2010年時点では一人あたり2戸ですが、2030年には、一人あたり3戸建てないと供給が間に合わないという状況になり、この数字が今後ますます増えていきそうです。

つまり、住宅着工数は減っていっても、それ以上に大工さんの数が減っていくので、大工さん一人あたりの仕事量は、今後ますます増えていくということです。

大工さんが忙しくなれば、建築工事費の労務費は高くなります。他の職人さんも現場監督も同じように労務費が高くなります。そう考えると、これからの建築工事費は、しばらくは安くはならないのではないかと私は思うのです。今が一番工事費が安かったということになるかもしれません。みなさんは、どのようにお考えでしょうか。

フォローしてね!